2016年4月30日土曜日

小さな銭湯小さな闇

銭湯。カランの前乾いた体で何もせずじーっと座っている中年がいて、変な人だなーと思い観察した。難しい顔をしているので考え事をしているようにも、浴槽で騒ぐ子供にイラっとしているようにも見えた。そして彼自身も周囲を観察しているようにも見えた。もしかしたら作家とかアーティスト、哲学系の人だろうか、だとしたら興味深いなと不審がられない程度に観察を続けた。1時間程経っても(その間僕はサウナ→水風呂を繰り返し)彼がまだじーっとそこにいるのでさすがに気味が悪くなってきた。鏡の前に並べられている彼のシャンプーやコンディショナーの横に、それを入れてきたのだろうコンビニのビニール袋があってその中にまだなんか入っている。その「なんか」がもしかして凶器だったら超怖いとかいろいろな妄想をしながら彼を横目に髪を洗った。途端彼が立ち上がって僕の背後をウロチョロしはじめる。鏡越しに僕超警戒。そしたらどどんぱ、彼、他人のシャンプー(忘れられたものなのか)を手に取るや否や「なんか」の袋の中にさっと入れた。シャンプー泥棒だったわけですね。思い返せば彼の難しい顔も周囲の観察も1時間以上のカラン前の居座りも「なんか」の袋もそのためだった。

僕は彼が、もうちょっとでかいことやろうとしているんじゃないかと思っていた。例えばそれは、梶井基次郎の檸檬みたいな「ちょっとしたテロ」的な敢行を。あるいは彼の深い思考がインスピレーションが、何時間も公共の裸の空間に拘束させているのかもしれない、そんな風にも思えていた。けれども内実彼のしたことはとてつもなくスケールの小さな過ちだ。


「泥棒」「頭のおかしな人」を目の当たりにしたのだと片付けてしまえばそれまでだけれど、そうともいえない何かがあった。これは小さい闇だと思った。小さすぎて、忠告するなんていう発想がまったく思い浮かばななかった。たとえ浮かんだとしても忠告なんかせず観察してしまうけど僕は。

日本にいるとついそれを忘れるが日本は小さな国だ。だから歴史という縦軸を深くしていくことがこの国には必要なのかもしれない。けれどもそこで、見落とされてしまうくらいの小さな闇もあったはずだ。歴史のアーカイブから弾かれた小さな闇が。小さなおっさんが。

小さなおっさん。僕の作品でいつか生まれ変わるから待ってろよ。今夜はハーゲンダッツ食って寝る。